歌舞伎の役柄と扮装

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衣装や化粧で、人物の性格まで表現します。

▼立ち役

善人の男性の役の総称。元は、座って演奏する音楽演奏者を地方、立って演じる演技者を立方と呼んでいましたが、その後、女形と子役を区別して男役だけを指すようになりました。役柄の細分化に伴い善人の男性役に限定されるようになりました。その中でも演技の内容により、「実事師」「荒事師」「和事師」「辛抱役」などに分類されます。

●実事師-分別をわきまえた大人の男の役柄。悲劇的な状

況に置かれ、苦悩しながらも、明晰さをもって事件に立ち向かう。「石切梶原」の梶原平三景時のように、風格ある人物に使われる生締という鬘で、写実的な扮装をします。代表的な役は「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助など。はら芸という、抑えた動きに深い内面を滲ませる演技で魅せます。

●荒事師-生命力が漲り、剛勇な力に満ちた勇壮な人物。歌舞伎草創期における江戸の風土の荒々しさを象徴しています。弱きを助け強きをくじく正義感で、直情径行な稚気もあります。「暫」の鎌倉権五郎景間政、「菅原伝授手習鑑」「車引」の梅王丸などがその代表。

●和事師-色恋に生きる優男。良家の令息であることが多く、世間知らずな言動をします。白塗りでどこか弱弱しげな風貌をしています。「廓文章」の藤屋伊左衛門は、紙で作った「紙衣」という衣裳で落魄を端的に表しています。

●辛抱役-敵役からいじめられるのをじっとこらえて忍ぶ役をいいます。「仮名手本忠臣蔵」で松の廊下で高師直に侮辱される塩屋判官。仲居万野に苛められる「伊勢音頭恋寝刃」の福岡貢など。怒りを内面で堪える演技力が要求されます。

▼女形(女方)

歌舞伎の女性の役の総称。またそれを演じる俳優を指します。一座の最高位の女形を「立女形」といいます。

●赤姫-金糸銀糸の華やかな刺繍模様の赤の振袖が、お姫様であることを象徴し、赤姫と呼ばれます。その代表が八重垣姫(本朝 廿四考)、時姫(鎌倉三代記)、雪姫(祇園祭礼信仰記)の「三姫」といわれる大役。恋に生きる一途な役柄が多い。気高く、困難に立ち向かう単純明快で大胆な行動に、お嬢様ならではの純粋さが見られます。

●町娘-美しい模様の振袖を着ています。町娘も赤姫に似て、恋愛にまっすぐに取り組み、自分の身を滅ぼすことも厭わない情熱がいじらしい。「新版歌祭文」のお染、「妹背山婦女庭訓」のお三輪など。

●片はずし-奥女中や武家の女房役に用いる鬘の名称からその役柄をも指すようになった。奉公する家のために、自己の情愛を捨てるなど、封建時代の義と、働く女性の辛さを見せます。「伽羅先代萩」の政岡など。

●傾城-語源は城を傾けるほどの美女という意。上級の遊女を指す。色気と品格を備えねばならず、女形の中でも難しい役。「助六由縁江戸桜」の揚巻がその代表。「伊達兵庫」という鬘豪華な縫い模様のうちかけ、まな板帯という大きな前帯をつけています。江戸吉原の傾城は張りと意気地を誇りにしていたといいます。他には、夫のために立ち働く世話物の女房、女だてらに力が強い女武道など様々な役柄があります。女形は原則として悪女や老女を演じないのが通例ですが、悪婆と呼ばれる悪い女の魅力を見せる、土手のお六などの例外もあります。

▼敵役
悪人の役、およびそれを専門に演じる俳優。赤っ面と呼ばれるのは、文字通り赤い顔をしている単純な悪役。公家悪は位の高い公家で「菅原伝授手習鑑」の藤原時平など天下を狙うという大きな野望を持つ悪人。青い隈取りで不気味さを放つ。実悪は「伽羅先代萩」の仁木弾正のように緻密な策略でお家の転覆を狙う冷酷な敵役。「四谷怪談」の民谷伊右衛門のように、残忍な二枚目の悪役は色悪と呼びます。滑稽な面も併せ持ち、どこか憎めない半動敵、下っ端の敵役、端敵もあります。

▼道外方(どうげがた)

道外方と書きますが、西洋の演劇から発生した道化と同様に、滑稽味を見せる役柄。江戸時代、看板の3枚目に名前が載ったために「三枚目」とも呼ばれます。鬘や扮装、隈取りや台詞まわしに、どこかおかしみがあります。これに敵役の要素が加わったのが半道敵。女主人公に横恋慕するも、その恋人にあしらわれ、失敗することが多い。「仮名手本忠臣蔵」の鷺坂伴内、「義経千本桜」の速見藤太がその代表例。

▼からみ
立回りの場面で、軍兵や捕手などに扮して主役にからむ役。主役の美しさや強さ、立派さを引き立てるために、いとも簡単に投げ飛ばされ、回転させられ、とんぼを切る(宙返り)などして、その場面を盛り上げる。人数はひとりから大勢まで演目によって異なります。「欄平物狂」の四天など、きびきびした動きで、様々な殺陣を見せるのが眼目。

▼黒衣(くろこ)

舞台の進行や演技を助けるための雑用をこなす係。黒一色の特殊な衣装に、黒い頭巾という、黒ずくめの格好をしています。俳優に必要な小道具を渡したり、片付けるのが主な仕事。他に「差し金」という棒を扱い、鳥や蝶を動かすなど、劇の進行上欠かせない役割も担う。黒衣は舞台上に現れて行動しているが、歌舞伎では黒は闇を示し、闇は見えないという前提から、観客からも見えていないという約束になっています。黒の衣だと背景に溶け込まないような場合は、その場面に即した色の衣をまとう。雪の場面では白の衣「雪衣」海や川では水色の衣「水衣」「浪衣」など、背景の保護色となる色の衣になります。

▼後見(こうけん)

俳優の背後から世話をするので後見といます。黒衣と同様に舞台の進行や役者の演技の手助けをします。黒衣も後見の一種。舞踊や荒事などの様式性の高い演目では黒衣の姿ではなく、紋付に袴をつけた姿で補助します。歌舞伎十八番や、特殊な歌舞伎舞踊では、化粧し、鬘・裃をつけて勤めることもあり、それを「裃後見」と呼びます。いずれを見えないという約束は黒衣と同じで、登場人物とはみなさないことになっています。基本的に演者の門弟が勤めますが、追善・襲名など特別な舞台では、親や師匠・先輩が受けもつこともあります。又、狂言作者が黒衣をつけて俳優の背後から台詞を補助する場合もあります。

▼隈取り(くまどり)

単に「くま」ともいい、超人的な人物を象徴する荒事師や敵役の化粧法。人間以外の役にも用いられます。目の周りや頬、額などに筋を描き、力が漲った時の血管や筋肉の隆起を誇張します。本来、「隈」は陰、光の及ばない部分のことで、この隈を描くことにより、筋肉の隆起を際立たせました。筋の色によって、その人物の性格を強調し、赤の筋が「紅隈」といい、若さや勇気を示します。青の「藍隈」と茶の「代赦隈」は陰の強調で、邪悪な敵役や動物の精などの役柄に使われます。「藍隈」には「妹背山婦女庭訓」の蘇我入鹿など、「代赦隈」には、「土蜘」の土蜘の精があります。このように強さ、怖さを象徴する一方で、「寿曽我対面」の朝比奈など、滑稽味を伴う人物も、その性質を強調するような隈を取ります。

隈取り

・「二本隈」は「車引き」の松王丸などに用いられます。
・「筋隈」は顔の筋肉の隆起を描きます。「矢の根」の五郎がこの隈を描いています。
・「鯰(なまず)隈」「蝙蝠(こうもり)隈は滑稽な役のときに描きます。
・「般若隈」は邪悪な敵役などで描きます。

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