時代を超えて舞台で生き続ける言葉の意味を知ることで歌舞伎はもっと面白くなります。歌舞伎鑑賞のために知っておくと便利な歌舞伎用語を紹介します。
この記事の目次
悪婆(あくば)
中年近くの女形の役で、義侠心のためや、のちには欲のために悪事を働く人物で、毒婦役のこと。切られお富など生世話の芝居に登場します。眉を落とした通称馬の尻尾と言われる下げ髪でゆすりなどを働く。9代目澤村宗十郎の切られお富が有名。
浅葱幕((あさぎまく)
薄い水色の幕のこと。
定式幕や緞帳の奥に吊って、一瞬にしてふりかぶせ場面を消したり、瞬時におとして絵面を強調します。
当て振り
とくに所作事で、歌詞の言葉そのままにフリが付けられたもの。「関の扉」の「きゃぼうすどん」という部分で見れます。
荒事(あらごと)
初代市川團十郎の創案した演技様式で、江戸歌舞伎のいちばんの特色となりました。怪力や勇壮な人物が行う。歌舞伎十八番の『暫 (しばらく) 』『矢の根』などはその代表的演目です。
色悪(いろあく)
二枚目だが悪役でニヒルな表情が特徴。役どころでは四谷怪談の田宮伊右衛門、かさねの与右衛門など。
色敵(いろがたき)
色悪ほど二枚目ではないけれど、なんとなく色気のある敵役。御所五郎蔵の星影ド右衛門など、
絵面(えめん)
見得の一種。幕切れなどで、登場人物全員が整った形で静止し、舞台全体が絵のような美しい構図となることをいいます。または役者の配慮によるバランスのこと。
縁切り(えんきり)
相思相愛の男女が衆人環視の中で縁を切る場面。女が男の目的のために縁を切ろうとすることが多い。女はその本心を隠して別れ話を切り出すので、男は真意に気づかず逆上して殺しに至ります。
背景に流れる胡弓などによる哀切ある音色が、心ならずも縁を切る女のつらい心情を引き立てます。
大向う(おおむこう)
常連客が屋号の成田屋音羽屋待ってましたなどのかけ声をかけ、舞台を盛り上げます。舞台から一番遠い、向こう桟敷の後方あたりの席から声をかけていたことからこう呼ばれました。転じて常連客や見巧者のことを意味するようになりました。
お家の重宝(おいえのちょうほう)
主家没落の原因となった紛失の宝物を詮議する家来の忠義が、お家騒動(仙石騒動、伊達騒動など)の物語に多く見られる。重宝は騒動のシンボルと受け止められる。
大切(大喜利)おおぎり
一日の演目の最後の幕に演じられる芝居。または所作事。「喜利」は客も喜び、演者も利を得るという意味の当て字である。もともと「大喜利」は寄席のプログラムを指す言葉であったが、そのうち出し物そのものを表す歌舞伎用語となっていった。
顔見世(かおみせ)
江戸時代、毎年11月は芝居の世界の正月とされ、一座総出演の芝居を上演しました。劇場と1年間の契約を結んだ俳優の顔ぶれを見せることから顔見せと呼ばれました。現在は京都・南座の12月興行にその名残があります。東京の顔見世興行は名称だけが残りました。
くどき
おもに、女性が男性への思いをかき口説く場面。唄・語りや三味線の叙情的な旋律に乗り、舞踊的な動きで切々と心情を訴える女形の見せ場。舞踊の一場面にもあります。
首実検
人や武将の死の真偽を確かめるため、その人物が、首が本物かどうか検分する場面。別人が身代わりとなる場合が多い。小道具の切首を使います。
化粧声
>荒事の主役の動作を引き立てるために、舞台上に居並ぶ端役らが声をそろえてかける声。アーリャコーリャでっけぇといいます。
ご贔屓(ごひいき)
俳優や劇団を後援する人々。江戸時代は先祖代々、特定の俳優の家を支援しました。今日のファンとは異なり、絶大な援助をしました。
子別れ
親子の別れの場面。義理のためにとうしても別れなければならない状況となり、悲しみに耐えようとする親心と、子が親を慕う様が涙を誘う。母と子の別れが多い。
桟敷
高級な観客席。多くは堀リこたつ式の座席で、他の観客席より高い場所に位置しています。頼べば、お茶や食事が席まで届けてもらえます。
襲名
先祖代々の名や師匠の名を継承すること。襲には、“かさねる”という意味があります。新之助→海老蔵→團十郎のように、ひとりの俳優が複数回改名することもあります。
にらみ
市川團十郎家の襲名披露時に口上で行なう睨む見得。荒事とにらみは一体のもので、團十郎家に代々伝承されています。
濡れ場
官能的な場面。多くは帯を解くなど、その後を暗にほのめかす動作を見せるにとどまるが、時として直接的な表現もあります。
引き抜き
観客の目の前で瞬間的に衣装を替える演出。衣装を重ねて着付け、上の衣装に縫いつけていた糸を抜き、着物を引き抜くと、下の衣装が現れる仕掛けになっています。
道行
旅する人物の心情をその情景に絡ませて描写する舞踊。本来は地名をよみこんだ単なる旅の行程を見せるものでした。近松門左衛門の心中物以降、男女の逃避行や心中へ向かう旅路を情緒纏綿と描くものが多いが、親子や主従の組み合わせもあります。
幕見
上演演目のうちの一幕だけを見る場所。一幕見ともいいます。現在常設で、一幕見ができる劇場は歌舞伎座と松竹座の2ヵ所。
見顕し
本来の身分や性格を隠していた人物が、本性を見破られ、本名を名乗り正体を顕す場面。衣装を上半身だけ脱いで、内側に着ていた衣装を表すぶっかえりという演出が使われることが多い。
見染め
男女の出遭い、一目ぼれする場面。相手の容姿に見惚れて我を忘れ、陶然となることもあります。
めりやす
役者の演技の長短に合わせ伸縮自在に演奏される下座音楽。色模様など情緒ある場面に流れる。語源は諸説ありますが、伸縮自在の布地メリヤス説が有力。
物語
主役が過去の出来事や述懐を、身振り手振りを交えて物語る場面。合戦の様子を語ることが多い。立役の見せ場のひとつ。
屋号
歌舞伎俳優の家の呼び名。市川團十郎の成田屋、尾上菊五郎家の音羽屋、など。かけ声に使われます。由来は出身地、商店名など、家によって異なります。
もどり
悪人に見えた人物が、本心を明かし、実は善人であったことを明らかにする場面。悪人は心を入れ替える場合もあります
ゆすり
殺人や盗みの現場を目撃した人物が、それをネタに犯人のところに出向き、金品をゆする場面。
六法
右手と右足のように、同じ側の手足を同時に振り出して歩く荒事の勇壮な演技。天地東西南北の6方向を指すので六方とも書きます。六法を踏むといいます。