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時代背景を知るとより楽しめる、歌舞伎の演出
▼時代物と世話物(じだいものとせわもの)
歌舞伎の演目は、その内容から大きく時代物と世話物に分けられます。
時代物は主に公家や武家の社会を扱った作品で、江戸時代の人々から見た時代劇のこと。江戸時代以前の通俗的な日本史上の様々な事件を題材としています。
役名は実名もしくは、その人物を連想させる名前になっています。< 江戸時代は、当時の出来事をそのまま芝居にすることは禁じられていました。 そのため、赤穂浪士の討ち入りなどの事件は、室町時代など他の時代に置き換えて描かれることもありました。 時代物でも、上代や平安朝時代を舞台にした作品は「王朝物」(王代物)、大名や旗本の家で起きた事件を描いたものを「お家物」といいます。 一方、世話物は江戸時代の町人社会を題材とした作品。< いわば、当時の現代劇。近松門左衛門の「心中天網島」など、当時起こった心中事件や情事の絡んだ殺人事件を基にした作品、侠客や相撲取りの義理人情を扱ったものまで幅広い。< 時代が下ると、下級の庶民の生活をより写実的に描いた生世話物と呼ばれる演目も生まれました。
▼義太夫狂言(ぎだゆうきょうげん)
18世紀初頭から歌舞伎では、人形浄瑠璃(現代の文楽)で評判になった演目を取り入れてきました。
これらの演目を義太夫狂言といいます。義太夫節の詞章を記した本を丸本と呼ぶことから、丸本物とも言います。主人公が、主君やお家に忠義を尽くし、自己を犠牲にする悲劇が多い。
長編の物語で、文学性に富んだ複雑な構成を持つが、歌舞伎では有名な場面だけを上演することがほとんど。
歌舞伎では原則として、台詞を役者が語り、義太夫が台詞以外の地と呼ばれる情景描写を語る。
作品の山場では、登場人物が台詞を義太夫に語らせて、舞踊的なしぐさで心情を訴えるなど、人形浄瑠璃の影響を受けた演出に特徴があります。
三大名作といわれる「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」は全て義太夫狂言。
▼荒事と和事(あらごととわごと)
歌舞伎が発展した元禄時代(江戸中期)。江戸では豪快な「荒事」が、上方では優雅な「和事」の対照的な演技が生まれました。
荒事とは、力漲る勇壮な人物の演技の様式。
罪のない善人が、悪人に殺されかかる危機一髪の状況などに、颯爽と現れ、想像を絶する力強さを見せつけて彼らを救出する。
この英雄の人間離れした様子を表現するために、主人公は3本の太刀をつけたり、力が溢れ血管が浮き出ていることを示す隈取りをするなど、超人的な格好をしています。
文字通りの荒々しい動作が特徴で、まっすぐな性質に子どもっぽさも感じられます。
「暫」の鎌倉権五郎景政、「矢の根」の曽我五郎時致などが代表。
江戸で初代市川團十郎が、全身を真っ赤に塗って演じた坂田金時が荒事の創始と伝わる。
以来、市川家の芸として受け継がれています。和事は、優美な二枚目の男性演技様式。
やわらか事とも言われる。女性への強い恋情を描く場面が特徴。
優男、色男の代表ともいわれていますが、頼りなく情けない男性にも見えます。母性本能をくすぐる人物像が描かれます。
親から勘当され、落ちぶれた姿を彷徨うなどの、悲劇的な局面にもあまり動じません。
おかしみのある振る舞いをする点に、良家のお坊ちゃまらしさが表現されます。
「廓文章」の藤屋伊左衛門、「恋飛脚大和往来」の亀屋忠兵衛が代表人物です。
▼舞踏(ぶとう)
所作事とも呼ばれます。歌舞伎では舞踊が重要な位置を占めてきました。
現在も一公演にいくつかの舞踊劇が上演されます。
もともと舞踊は女形の演目で、「京鹿子娘道成寺」や「藤娘」など、女性の恋心を流麗なしぐさで見せるものが多い。
立役の舞踊は「うかれ坊主」「供奴」など、軽妙洒脱な演目が多くあります。
恋人同士の逃避行を見せる「落人」「吉野山」などの「道行」。
天下を狙う男と、その野望を阻もうとする女の対立を描いた「関の扉」「将門」など重厚な作品。
能・狂言を題材にした松葉目物。その内容は多岐に亘ります。