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外郎売と書いて「ういろううり」と読みます。外郎売は市川團十郎の十八番といってもいい歌舞伎の中でも人気の演目です。
外郎売の口上はアナウンサーや役者さんが滑舌の練習によく使います。最近、こうした滑舌練習テキストがYouTubeでもよく見かけますが、全文にふりがなが付いていないために、わかりずらいという声を耳にしましたので、ここに外郎売セリフ全文をふりがな付きでまとめました。
外郎売(ういろううり)とは?
享保三年(1718)一月、江戸森田座初演。「若緑勢曽我」の一説が独立したもの。外郎とは中国の元の札部員外郎で日本に帰化した陳宗敬が伝えた薬。
痰きり、口臭をのぞく丸薬透頂香として小田原で売り出され、江戸時代の名物になっていた。
市川海老蔵(七代目團十郎)の「助六」で息子の八代目團十郎が外郎売に扮したという記録があるが、久しく埋もれていたのを、昭和十五年(1940)に七代目松本幸四郎長男(のちの十一代目團十郎)が市川宗家に養子にはいった披露狂言として、川尻清譚の台本で上演した。その後、五十五年五月、十二代目團十郎が海老蔵時代に、野口達二の台本で復活。
同六十年の十二代目襲名の際に、長男新之助と二人で外郎売に扮した。
外郎売あらすじ
構成は、「曽我対面」とほぼ同じで、曽我の世界と小田原名物を結びつけて、曽我五郎が外郎の薬売りに身をやつして工藤祐経の館に入りこみ、敵に近づくが、時節を待てと諫められて別れる「対面」の一幕になっている。
外郎売の見どころ
見どころは外郎売の長せりふだ。これは新劇などの俳優訓練の活舌術にも利用されている。
歌舞伎の古い時代には「しゃべり」という芸脈があり、関西の坂田藤十郎などは、「けいせい仏の原」の梅津文蔵で男女の痴話を描写する長ぜりふを聞かせたが、江戸の荒事でも長ぜりふを聞かせる芸があり、見物に好まれた。
薬売りは香具師の役目で、江戸市中には長口上を弁舌さわやかにまくし立てて売り歩く商人が大勢いたが、この外郎の売り子もそのひとつで、街頭での売り立ては評判になっていたと考えることができる。曽我五郎が、薬売りに変装して敵の工藤裕経に近づくというのが意表をついた歌舞伎の発想で、敵討ちに、事前に両者をあわせる「対面」という形式をつくり出して儀式性を持たせながら、一方では五郎に「やつし」のなりをさせたのである。
●外郎売の名せりふ・・・五郎/ひよっと舌の回り出すと、矢も楯もたまりませぬ。そりゃそりゃそりゃ回ってきた、回ってきた。そもそも早口の始まりは、アカサタナハマヤラワ、オコソトノホモヨロヲット、一寸先のお小仏におけまづきやるな細溝にどじょにょろり、京の生鱈奈良なま学鰹ちょいと四五貫目、くるわくるわ何がくる高野の山のおこけら小僧、狸百疋箸百ぜん、天目百ぱい棒八百ぽん、武具馬具武具馬具合わせて武具馬具六武具馬具、菊栗菊栗三菊栗合わせて菊栗六菊栗・・・
外郎売セリフ全文 ふりがな付き
外郎売り本文段落一
拙者親方と
申すは、お
立会の
中にご
存知お
方ござりましょうが、お
江戸発って
二十里上方、
相州小田原一色町をお
過ぎなされて、
青物町を
上りへおいでなさるれば、
欄干橋虎屋藤右衛門只今は
剃髪致して、
円斉と
名乗りまする。
元朝より
大晦日までお
手に
入れまするこの
薬は、
昔ちんの
国の
唐人、
外郎という
人、わが
朝へ
来たり、
帝へ
参内の
折から、この
薬を
深く
籠めおき、
用ゆる
時は
一粒づつ、
冠の
隙間より
取出す。
依ってその名を帝より、頂透香と賜る。即ち文字には、「いただき、すく、におい」、と書いて、「とうちんこう」と申す。
只今は此の薬、殊の外世上に広まり、方々に似看板を出し、イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと、色々に申せども、平仮名をもって「ういろう」と記せしは親方円斎ばかり。
もしやお立合の中に、熱海か塔の沢へ湯治にお出なさるるか、又は伊勢参宮の折からは、必ず門違いなされまするな。お登りならば右の方、お下りなれば左側、八方が八棟、表が三つ棟玉堂造、破風には菊に桐のとうの御紋を御赦免あって、系図正しき薬でござる。
外郎売本文段落二
イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、御存知ない方には、正身の胡椒の丸呑、白川夜船。さらば一粒食べかけて、その気味合をお目にかけけましょう。
先ずこの薬を、かように一粒舌の上へのせまして、腹内へ収めますると、イヤどうも云へぬは、胃心肺肝がすこやかになって、薫風喉より来たり、口中微涼を生ずるが如し。魚鳥・茸・麺類の喰合わせ、その外、万病速攻あること神の如し。
さて、この薬、第一の奇妙には、舌の廻ることが銭独楽がはだしで逃げる。ひょっと舌がまわり出すと、矢も楯もたまらぬじゃ。
外郎売り本文段落三
そりゃそりゃ、そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるわ。アワヤ喉、サタラナ舌に、カゲサ歯音。ハマの二つは唇の軽重開合さわやかに、アカサタナハマヤラワ、オコソトノホモヨロヲ、一つへぎへぎに、へぎほしはじかみ、盆まめ・盆米・盆ごぼう・摘蓼、摘豆、摘山椒、書写山の社僧正、小米のなまがみ、粉米のなまがみ、こん粉米の小生がみ、繻子ひじゅす、繻子繻珍、親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親かへい、子かへい、子かへい親かへい、
ふる栗の木の古切口・雨合羽が番がっぱか、貴様のきゃはんも皮脚絆、我ら>が脚絆も皮脚絆、しっか袴のしっぽころびを、三針はりなかにちょと縫ふて、ぬうてちょとぶんだせ、かわら撫子、野石竹。
のら如来のら如来、三のら如来に六のら如来。一寸のお小仏におけつまずきゃなるな、細溝にどじょにょろり。京の生鱈奈良なま学鰹、ちょっと四五貫目、お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ茶だちょ、青武茶筅でお茶ちゃっと立ちゃ
外郎売本文段落四
来るわ来るわ何が来る、高野の山のおこけら小僧。狸百匹・箸百膳・天目百杯・棒八百本。武具・馬具ぶぐ・ばぐ、ぶぐ・ばぐ、三ぶぐばぐ、合わせて武具・馬具六ぶぐばぐ、
菊・栗・きく・くり・三菊栗、合わせて菊・栗・六菊栗、麦ごみ、麦ごみ、三麦ごみ・合わせて麦ごみ六麦ごみ。あの長押の長薙刀は、誰が長押の長薙刀ぞ。向うの胡麻殻は荏の胡麻殻か真胡麻殻か、あれこそほんの真胡麻殻。がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきやがれ小法師、ゆんべもこぼして又こぼした。
たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりからちりから、つったっぽ、たっぽたっぽ一丁だこ、落ちたら煮て喰を、煮ても焼いても喰はれぬ物は、五徳・鉄きゅう・かな熊童子に、石熊、石持・虎熊・虎きす、中にも東寺の羅生門には、茨木童子がうで栗五合つかんでおむしゃる。かの頼光のひざ元去らず。
本文段落五
鮒・きんかん・椎茸、定めて後段な、そば切り、そうめん、うどんか、愚鈍な小新発知、小棚の、小下の、小桶に、こ味噌が、こあるぞ、小杓子、こもって、こすくって、こよこせ、おっと、合点だ、心得たんぼの川崎、神奈川、保土ヶ谷、戸塚は、走って行けば、やいとを擦りむく、三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯がしや、小磯の宿を七つ起きして、早天早々、相州小田原とうちん香、隠れござらぬ貴賤群衆の、花のお江戸の花ういろう、あれ、あの花を見てお心を、おやわらぎゃという。産子、這ふ子に至るまで、この外郎のご評判、ご存知ないとは申されまいまいつぶり、角出せ、棒出せ、ぼうぼうまゆに、臼・杵・すりばち、ばちばちぐわらぐわらぐわらと、羽目を弛して今日お出での何茂様に、上げねばならぬ、売らねばならぬと、息せい引っぱり、東方世界の薬の元締め、薬師如来も照覧あれと、ホホ敬って、ういろうはいらっしゃりませぬか。
外郎売セリフ発声参考動画