演技に合わせて、場面を効果的に盛り上げる重要な部分
▼「長唄」
(上図は勧進帳の場面)
「勧進帳」「京鹿子娘道成寺」「鷺娘」など歌舞伎で最も多く使われる音楽。
舞踊の伴奏や芝居の背景に流れる音楽も担当します。
明るく、流れるような響きで、律動的な曲調。
<唄、三味線の他に笛、小鼓、大鼓、太鼓の歌舞伎囃子が曲を盛り上げます。 「花の外には松ばかり」のように風景や状況を伝えます。
▼「竹本」
歌舞伎専門の義太夫節演奏者の略称。義太夫節は、竹本義太夫が創始した語り物音楽。
人形浄瑠璃の劇音楽として発生し、歌舞伎に導入されました。
(写真は義太夫節浄瑠璃(竹本駒之助氏)
▼「清元」
江戸時代に生まれた三味線伴奏の語り、浄瑠璃の中では最も新しい。
技巧的で繊細な節回しで、艶っぽいのが特徴。
男性の高い声と三味線の澄んだ音色が色気を生じ、「恋よ恋、われ中空になすな恋・・・」と、恋のもの思いなどを哀切たっぷりに聞かせる。
また劇中の場の情緒を盛り上げる「他所事浄瑠璃」の役割もします。
▼「常磐津」
物語を語る浄瑠璃の一流派。
男女の心情を美声で訓やかに語る豊後節の流れを汲むが、その中では最も硬派。
恋のやりとりや恨み言も洗練され、都会的な印象。
「関の扉」や「将門」のように、天下掌握を企む悪者と、それを阻止する正義の人物の対立といった重厚な舞踊に多く使われます。
▼「河東節」
江戸期に創始された浄瑠璃の一流派。
語り口は上品で力強く、三味線も強い弾き方で、「ハォー」という掛け声に特徴があります。
品格ある芸風が、知識階級や富裕階級に愛好されました。
現在では市川團十郎家の歌舞伎十八番「助六由縁江戸桜」中で、舞台正面下手に設えた黒御簾内で演奏されることでその名が知られます。
▼「大薩摩」
荒事や深山幽谷の場面など、一種の凄みを帯びた状況の直前に語られます。
勇壮な歌詞と旋律でその場の情景描写を聞かせます。
「それ清涼山の石は・・」(鏡獅子)・(連獅子)、「さる程に曽我五郎時致は・・」(矢の根)のように、大抵「それ」や「さる程に」という詞章ではじまります。
浅葱幕や雲幕その他の道具幕の前で、長唄の唄方と三味線方がひとりずつ舞台で出る演出が多い。
演奏が終わると幕が振り落とされ、その演目の山場とまります。
元は浄瑠璃の一流派でしたが、他の音楽に圧倒されて衰退、長唄に吸収されました。(写真は唄:杵屋巳紗鳳氏、三味線:杵屋巳太郎氏)
▼「下座(黒御簾)」
下座音楽とは、歌舞伎の伴奏や擬音、開幕や終演を知らせる音楽のこと。
舞台に向かって左側、下手の小部屋で演奏されます。
黒御簾がかけられ、外からは演奏者は見えず、黒御簾音楽ともいいます。
舞台の場面にふさわしい曲や、その場面から聞こえてくるような音で芝居を彩ります。
演奏は、長唄の唄方、三味線と鳴り物の演者が勤めています。
この下座音楽の構成を「附け」といい、これを考える演奏家を「附師」と呼びます。
また擬音で、人の動きや自然現象、場所等も表現します。
波の音や、本来なら音のしない雪の音まで描写し、その情景を伝えます。(写真は尾上菊五郎劇団:長唄)
▼「ツケ」
バタバタッという歌舞伎独特の効果音をツケ、その係をツケ打ちといいます。
舞台上手端に黒い衣をつけて座り、役者の演技に合わせて、積み木のような長方形の棒で板を打つ。
見得など山場の強調、足音、小道具の落ちる音など、様々な用途で使われます。
見得をきる時には「バッータリ!」とその瞬間を誇張し、「パタパタ・・・」と女性の走る音は小刻みに柔らかく早く、英雄の活躍は「バタッ・・バタッ」ゆっくりと間隔をあけて打つなど、その場面を効果的に印象づけます。
▼「柝(き)」
柝(き)とは拍子木、またはそれを打つこと。
ふたつの細長い拍子木を打ち合わせる。
乾いた響きは遠くまでよく聞こえるため、幕の開閉、芝居の始まり、幕切れなど、舞台進行を知らせる役割をします。
柝(き)狂言作者(きょうげんさくしゃ)と呼ばれる人がお客に顔が見えないようにして打ちます。狂言作者は自前の柝を持っていて、よい音が出るように普段(ふだん)から手入れをしています。